ボークス「ABSOMEC non GTMカイゼリン」-発動篇-

過日述べたように手元に届いて半年近く経過してからようやく組み立てた、ボークス(Volks Inc.)製「ABSOMEC non GTMカイゼリン」。

インターネットを見渡しても多くの好事家が既に組み立て個個人各各楽しんでいる様子が伺い知れた。
自室に備えた展示台に飾り愛でることも。
あるいは間接照明の入りも申し分ない撮影ブースに設置して自前のハッセルブラッドに、ディスタゴンF50mmF2.8かマクロプラナーCF120mmF4あたりの組み合わせでカイゼリンの撮影を愉しむのも良いのだと思う。

わたくし個人に関しては以前より考えていたこと。
自然光以外の照明はなにも付け加えない野外に持ち出し撮影すると面白い仕上がりになるのでは。さらにいえば小さなサイズのものよりある程度大きなモデルのほうが野外撮影に映えるのでは。
以前より漠然と考えていたことを実践すべくカイゼリンを持って外に飛び出してみました。

https://kose2013.com/

蛇足ではありますが時勢も考慮し平素より人気の無い場所を予め選定しておき、念には念をいれその上でツキノワグマやカモシカくらいしか活動していない時間帯を選び撮影。

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使用機材はオリンパスのOM-D E-M1 Mark IIに、レンズはM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROとコシナ・フォクトレンダー NOKTON 10.5mm F0.95の組み合わせ。
間接照明も画像加工や効果を付け足すこともレタッチも一切無し。
露出とホワイトバランスを少々調整しただけのものになっております。

https://kose2013.com/

ボークス「ABSOMEC non GTMカイゼリン」-接触篇-

現物それ自体は昨年末手元に届いていたが、わたくし自身の家業の都合で年が明けても年度自体をこえるまでまとまった時間を用意することは難しそうだったので。
箱をあけるのも組み立てるのも次年度になってからと決め、おそらく確かにカイゼリンが入っているだろう大きなダンボール箱をいまのいままで放置してきたのですが。
4月をむかえ前年度の仕事に関するあれやこれやもなんとか片付け、多少なりの時間が出来たのでようやっと開封いたします。

まずは収納されている各部品を検品。

組み合わせられたパーツのチリの小ささもエッジの立ち具合も、そこいらの模型や玩具の類に比べれば精度も高く細かい作りなのはこの段階でもはっきりわかる。

しかしながら模型史上に未来永劫その名を刻むような普遍不朽のモデルになっているかと問われれば。あくまで個人的な感想、私見でしかないが残念ながらそこまでのものでは無いというのが正直な意見。
重ねて一個人の所感だが各部に使われているABS樹脂素材は、ひけもそれなり目立ち。たとえABS樹脂を採用するにせよ、結果それが価格に反映されたとしても公差を厳しくするなど対策はあったよう感じる。

重ね重ねあくまでも個人的な愚見に過ぎないが、この定価の倍以上。なんであれば十倍のプライスタグを掲げてもよいから。パテック・フィリップ カラトラバと並べても全く見劣りしない、機械式時計における雲上ブランドの如き。
誰もが手に入れられる訳では無いが、ショーケースや写真で其れを眺める都度溜息のもれるような曠古稀覯の存在を目指して欲しかった。

とはいえ重箱の隅を楊枝でほじくるのは以上。以下は好ましく感じる箇所をあげながらいよいよ組み立ててゆく。

「GTMカイゼリン」パーツ確認&組立て動画(前編)

「GTMカイゼリン」パーツ確認&組立て動画(後編)

組立作業自体は予め殆どのパーツが組み合わされている上。発売元のボークス(Volks Inc.)から組み立てに際しての参考動画も掲示されているので、手にした多くのかたにおかれても比較的容易に完成させられる筈。

予め組み立て済みの、手の部位はエッジの立ち具合も申し分無く。もしも仮に同モデルが大手メーカーから発売されていたと想像すると製造コストは抑えられ、近しい品質ひょっとしてもう少し高品質かつ安価なマスプロダクションモデルに仕上がっていたのではとも思うが。
今の御時世、大企業になればなるほど重くのしかかるコンプライアンスに配慮すれば斯様にエッジの立ったパーツは、言葉通り「角を矯めて牛を殺され」。少量生産高額製品ならではの美点を失うことになるのではと考える。

クロームメッキ。おそらくは装飾クロムメッキが施された腰部は通常のプラモデルや玩具に施されたメッキパーツとは別次元の美しさ。

また、通常部品と透明部品が組み合わされた部位の仕上がりも美しい。

人型機械と其れをかたどった玩具にとっては最も顕要であろう頭部の出来は特筆すべき箇所かと。

そんな空言戯言をならべているうち小一時間程で完成。

以下無用のことながら。
世のプロダクトモデルには雑にわけて二種類。ロールアウトされた時点が完成形のものと、けして手を抜いて設計された訳では無いがそれでも生じる問題点を改修しアップデートされてゆくものと。

前者で真っ先に思いつくのがマクラーレンF1。F1レースの世界において数々の傑作車を世に放ったゴードン・マーレイが「20世紀最後の工業製品として、10年、20年後にも見劣りすることのない究極の自動車」を主題に公道専用車として設計しマクラーレンによって1994年に市販されたマクラーレンF1。

カイゼリンの生みの親、永野護の紡ぐ物語『ファイブスター物語』と自動車と、どちらも同じくらいの熱をもって語れる好事家ならば、総じて全てのかたは読んだことくらいあるだろう『幻のスーパーカー』。福野礼一郎の名著『幻のスーパーカー』に収録されているマクラーレンF1の試乗記事「カウルのなかのF1(McLaren F1)」から引用すると。

「マクラーレンF1のコクピットから這うようにして降り立った私は、何となくフロントのサービスリッドを開けてなかをのぞき込んでみた。ブレーキフルード、ラジエター・クーラントの補給用サービスキャップ、KENWOOD製の特別製小型10連CDオートチェンジャー、ファコム製ツールを収めた革の小袋などが、まるで役人の机の引き出しの中のように整然と並んでいた。ウィンドーウォッシャー・フルードと書かれたブルーの丸いフタを回し、はずして手に取った。それがNC制御マシニングセンターで切削加工されたチタニウム合金製品であることに気づいたとき、こんなクルマはもう二度とこの世に生まれてこないだろうと確信した。」

以上引用終わり。と、工場からシリアル番号第壱号がロールアウトされた時点でアガリのものもある片方で。

「最新のポルシェは最良のポルシェ」のキャッチコピーを持つポルシェに代表されるように。
とはいえこの言葉は企業体としてのポルシェAGのイメージ戦略で、始祖フェルディナント・ポルシェが括弧付きで「言ったそうな」言動をあえて精査せず流布するにまかせた結果らしいが。
ともあれポルシェやメルセデス・ベンツに代表されるドイツ車の多くは、とりわけ愛好家から黄金期と称される1980年90年代前後のドイツ製ハイパフォーマンスモデルは年次改良のたびエンジンやギアボックス、サスペンションのセッティングや取付部の補強など改修を重ね続け。同じ車であっても初期生産モデルと最終生産モデルとでは別物と言っても大袈裟ではないくらい。
信奉者をして「ドイツ車を買うなら最終生産モデルに限る」と言わせしめるほど、初期設計通りに生産されたものを完成形とはしない精神がドイツ車のものづくりの支柱になっていたそうだが。

ボークスから第一弾モデル、GTMカイゼリンが発売されたイージーアッセンブル・スーパークオリティモデル。これがマクラーレンF1では無くドイツ車黄金期のハイパフォーマンスモデルのごとく、寄せられたユーザーからの様々な意見を汲み取りさらなる品質向上と改善を重ねてゆくものであることを願いながら駄文を締め。
さておき玩具本来の趣旨。組み立て完成形を愛で遊ばせていただきます。