漫画家新谷かおるが、カメラを題材に描いた短編を集めた作品集『シリーズ1/1000sec.』。
作品自体今から40年近く前に発表されたものなので、作中に登場するカメラメーカーの中には同業他社に吸収されたりカメラ事業をやめているメーカーがあったり、なによりデジタル化の波が押し寄せる遥か以前。写真が画像センサーからRAWやJPEG形式の画像に書き出されるのではなく、銀塩フィルムが写真の記録媒体であった。そんな時代に描かれた物語なので今の目でみれば理解するのに少々知識の必要な情報もあるもの。
しかしながら本質は。
カメラの前に広がる光学情報をレンズを通して静止した一枚の画像に変換する、カメラそのものの本質は銀塩フィルムから画像センサーに変わったとて枢要に違いはなく、本作で語られている内容も、細かなディテールにおいて現状と違いはあるもの物語の主点は現在と変わらず、今読んでも存分に面白いし作中人物の台詞に納得する箇所も多い。
プロフェッショナルの現場においても、いやデジタルアナログに関してはスノッブ気取りの一言居士こそピントのずれたイメージを持っているかもしれないが、写真を生業とする現場の住人こそカメラのデジタル化に他の誰よりも速く反応し。
フリーランスであれば手持ちのフィルムカメラを質にいれ頭金を作ってでも同業者に先んじデジタルカメラを入手し、確実に業界を席捲するデジタル化の潮流に遅れまいと前のめりに適応を図った結果。アマチュアの世界よりも職業写真の分野においてデジタルカメラが縄墨となり、追って趣味の世界でも徐々に普及浸透してゆき。蛇足ながらアマチュアの末席として自身もデジタルがスタンダードになったころカメラを趣味にするようになったのだが。
例えその心臓にあたる機関が、フィルムからなる感光媒体から半導体製集積回路による撮像素子へと変わったとして、カメラそのものが電子の一門に転籍したわけは無い。今もその身は光学に属すものである。
その程度は明言できる。