日別アーカイブ: 2014年6月25日

小松未可子の『e′tuis』は、本当に音割れが酷いのか

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 先日ツイッターでつぶやいたように。

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 キングレコードから発売された、小松未可子のアルバム『e′tuis』の音の状態、音割れが酷いと発売当初話題になっていたらしく、本当にそうなのか自分でも確かめてみようと。
 それ以上に。ツイッターで知った、同アルバム製作に携わっている人物やスタジオの名前が興味深いものだったので、実際に聴いてみようと購入。

 最初に手持ちの、異なる性質のヘッドホンそれぞれで一聴したところ。ソニーのMDR-CD900STでは違和感を感じるところはなかったが、同じソニーのMDR-XB700にヘッドホン用アンプをつなげて最大音量で聴いていると、歌声の張っている部分等ところどころで微細な違和感。あくまでも注意して聴けば「そうかもしれない」と感じる程度の箇所がある。

 とはいえ、個人の印象からくるぼんやりとした感想をぐだぐだ並べ立てていても仕様がないので、実際の音情報を確認してみようと。編集ソフトを取り出し、アルバムの音源を取り込み可視化された音情報を見てみた。

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 上にあげた波形がアルバム収録曲「Sky Message」の可視化された音情報。一見すると音割れを起こしやすそうな形状ではあるが、この状態ではまだ判断できないので二段階にわけ拡大して見てみる。

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 一番上がイントロからアウトロまで楽曲全体を可視化したもので、その中の赤色に色分けした箇所「ひょっとして、この部分が音割れしているのかもしれない」と感じた箇所を拡大して下に表示する形で見てみる。
 拡大してみると部分によってはCD-DA、コンパクト・ディスク・デジタル・オーディオのフォーマット許容範囲に近いところまできている(この波形の頂点が、フォーマット許容範囲の限界地点にべったり張り付いたまま飽和している状態、クリッピングといわれる状態になると音割れを起こす原因となる)が、破綻はしていない。
 思慮深いリスナーによっては「波形の頂点が少しでも触れた時点で音割れなのだ」と感じるかもしれないが、おそらく大半のリスナーにとっては許容の範囲内。クリッピング寸前の状態でとどまり続けているので。
 こういった傾向の音を好まないリスナーもいるかもしれないが。だからといってミキシング、マスタリング作業にあたって注意を払われていない、エンジニアの怠慢がありありと見て取れる手抜き音源というわけではない。整音作業が施されている。

 ここから推測できるのは、音源それ自体の欠陥。製作者側に起因する問題よりも、リスナー側の環境によるもの。スピーカーやヘッドホン等出力機器それぞれが持っている個性というか味付けと音源との相性により、場合によっては違和感をおぼえる。あるいはMP3やAAC等の圧縮音源に変換する際の設定によって生じる問題なのでは。
 楽曲製作者やサウンドエンジニアに起因する問題、送り手に瑕疵があったというより、リスナーの方に起因する問題だったのでは。

 あるいはアルバムのミックスダウン、マスタリングを担当したエンジニアの「このアルバムを購入するリスナーの多くは、きっとこれこれこういった方向性の音を好み、そのためのリスニング環境を作っているに違いない」と想定して仕上げた音と、実際にアルバムを購入したリスナーの好みの音と、それを聴くために作った環境との齟齬から発生したものでは。
 そう自分なりの憶測をもって、今回の雑文を終わりにしようと思うが、以下追記として。

 『e′tuis』のクレジットを見ると、発売元こそキングレコード。かつては演歌やアニメソングの老舗として、今ではAKB48関連で有名なレコード会社。
 発売元こそキングレコードとクレジットされているものの、実際の製作にあたっているのはレコーディング、ミックスダウンをキング関口台スタジオ、ホワイトベース・スタジオ、2467スタジオ等々場所も、そしてエンジニアも多岐にわたり。
 そして、異なるスタジオやエンジニアによってレコーディング、ミックスダウンされた楽曲は。サイデラ・マスタリング・スタジオで森崎雅人の手によりマスタリング作業が施されていることが判り。

 自分を含めて、少しだけ物事に詳しい気持ちになっている半可通は。CDジャケットに表記されている会社名を見て「このレーベルの音はどれも海苔波形だからなあ」等としたり顔で、物事の道理が判っているかのように語りたがるものだが。
 そういった中途半端な知識からくる先入観と決め付けこそが、物事の判断を間違ったものにし。ひいてはこれから有りうる新しい素晴らしいものとの出会いを阻害するだけだと。
 改めて、自戒をこめて思った次第。