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最新は最高か

 ソニー製ヘッドホンMDR-XB700のセルフリペアに挑戦し。同じ会社から発売されたプロダクトモデルの同グレードであっても、最新モデルは全てにおいて旧モデルより勝っている訳でも無いのでは、との茫洋とした感想を昨日記したが。
 夜をまたいであらため自室を見渡すと、たとえば趣味のアンティーク懐中時計に関しても。

 勿論いまでも少数の需要にこたえ「懐中時計」というアイテムは製造され続けているもの、にもかかわらずわざわざ出物を待ち続け百年以上前の骨董品を求めたのも。
 たとえ百年前のガラクタにせよ、ものによっては現在流通している工業製品よりも明らかに作りが良い。いや既存のボトムエンドどころかハイエンドモデルと比べても、百年前の製品が現行品と品質において引けを取らない。そんな事例もこの世界にはあることに。

 たとえばコスト面や生産性において。具体的に例えば、プロダクトモデルの製造ラインを同社他モデルと共有することで生産性の向上ひいては企業として健全化がみこまれ株主には良い顔ができるのかもしれないが。
 何度もの工程を重ねなければ形成できないなど加工の困難な部位や、旋盤加工や鋳造で製造されたのち人手による仕上げ作業が必要な部品は廃止され。替わって多少いや半分以上は普及モデルと部品が共通化され、見てくれの上っ面だけはグレードごとの差異が図られる。
 結果旗艦モデルならではの拘り。それは極めて些細なものなのかもしれないが、だが非常に重要な、ひょっとすれば人によってはそここそを「味」として評価するかもしれない要素が除除に無くなってゆく。味が薄まってゆくことにつながるのでは。

 蛇足としてもうひとつの趣味の自動車に焦点を移しても、マツダのNB型ロードスターを新車時に購入し、同車自体は順当にモデルチェンジを重ねているが。だからといって自前のNB型を手放し最新モデルに買い換える気には到底なれない。
 如何にも愛好家の方ならば実経験をもって頷いてくれるだろうが、NA型とNB型であればスタイリング上の違い程度で本質はさして変わらず。しかしNB以降のモデルは、着座位置後退に伴い運転者の感知するZ軸まわり回転モーメントなどモデルごと明確に変わったと感じる部分はある。とはいえ他社の類似製品に比べれば。

 初代ロードスター発表以降、似たようなコンセプトのものが他社から多数出たもの、それらの他社モデルは実際に運転してみると、プロムの送迎専用車であったり走行会番長だったりと本質は大きく違い、ロードスターとは似て非なるものと断言できるが。そのようなものに比べれば本質は変わっていない。しかしそれでも比較してみればモデルごとにはっきり変わったと感じる部分はある。

 その差異を進化や改良と受け取れないから。新しいものは全てにおいて素晴らしい、畳と女房にかぎらず全てのプロダクトモデルは最新のものこそが最高のモデルである、なんて思考を断断乎として実践してゆく未来主義者にはついぞなれなかったから。
 だからこそNB型を手放す気にもなれないし、自身でレストアしてまでXB700を所持し続ける。

MDR-XB700のセルフリペア

 2007年にソニーから発売されたMDR-XB700。同社製ヘッドホンにおける新しいライン、EXTRA BASSシリーズ最初期のフラッグシップモデル「MDR-XB700」。
 クラブ音楽のリスニングに特化したラインというプレスリリースと、発売時はかなり斬新だったスタイリングにひかれて購入し、実際に使用したところ重低音再生に特化した、とはいえけして低音しか聞こえないキワモノでもないところに。そしてなによりスタイリング。
 同製品発売後には国内他社から追随して似たコンセプトのヘッドホンが多数発売されることとなる、ウォークマン以降のデザイン文法とは一線を画す重厚長大なイヤーパッドを基軸にしたスタイリングは発売から十年たっても、そして以前に記したように間の抜けた自損事故からいまだ片耳の聞こえが悪くヘッドホンで音楽を聴くことはほぼ無くなった今も魅力的で。

 しかし、XB700の美点である巨大なイヤーパッドは経年にともない内張りの部分がこのような無残な状態になり。

 存外気に入っていたので補修をして使えないかソニーのカスタマーセンターに問い合わせをしたところ。同製品のサポートは行っていないとのつれない返答。
 ただし、XB700の同グレードにあたるモデルと交換、というかたちで原状回復に応じるとのこと。
 少し考えたが、やはり同モデルに愛着といささかの未練があったので交換は断り、代わりにお金を払い改めてXB700の、その時点での同グレード相当。XB900を追加で購入した。

 だがしかし、時が経つにつれXB700そのものへの思いがまし。
 そうこうしているうち、同モデルに関する上に述べた、イヤーパッドの経年劣化に悩まされた好事家はそれなりにいたらしく、ソニー社外からレストア用のパーツが製造販売されていることを知り、さっそく自分も社外品のXB700交換用イヤーパッドを購入、セルフリペアに挑戦。

 交換作業はそうとう難儀だったが、かつて述べたこともある機械式腕時計用にそろえていた精密ドライバー等の工具が役立ち。

 まずはアームとヘッドホンユニットをつなぐネジを外し。

 イヤーパッドの内側に隠されているハウジングとイヤーパッドをつなぐネジも外す。

 パッド部分とハウジングの接続部になっている、リング形状の部品を取り外し。

 事前に用意していたレストア用イヤーパッドに換装し、再びヘッドホンユニットに取りつけアームと接続する。

 こうしてMDR-XB700のレストアと相成りました。

 蛇足として同モデルをインターネットで調べていると、市場においてかなりの希少価値がつけられ、デッドストックの美品に関しては発売当時参考価格の実に三倍強のプライスタグがつけられている。

 ソニーの同ライン、EXTRA BASSシリーズはモデルチェンジを重ねたが、それでもオリジナルのXB700を求める層は多いのかと。振り返れば自身も現行のフラッグシップモデルを新規購入したものXB700を手放す気にはなれず、セルフリペアに挑戦したのも。

 若い時分は最新こそが最善であると、モデルチェンジを重ねれば重ねただけ全てのあらゆる要素が向上されてゆくとの観念を持ちがちだが、いやいやどうして。刷新されたぶんだけ良くなる要素は確かにあるのだろうが、引き換えて失う部分も少なくない。
 そんなことも歳を経るごとスノッブ気味の受け売り薀蓄ではなく、実経験の積み重ねに基づいた焦点の定まった知識として分かってゆく。