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” The Origin of ” Return of the Super Ape

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今年逝去した音楽家兼プロデューサー兼レコーディングエンジニア。Lee “Scratch” Perry ことリー・ペリー。
60年以上にわたる経歴の初期においてリー・ペリーが発明したといわれる。ただ音楽演奏をレコーディングするだけでなく、異なる音を音源に差し込み。のみならず音源そのものを加工するその手法は “ダブ” と呼称されるようになる。
とはいえダブそのものは同時代の同ジャンル、レゲエミュージックのレコーディングエンジニアであるキング・タビーが発明したもので。ダブの始祖はキング・タビーであるとの説もあるが、であるからといえリー・ペリーの威光が陰ることなど無く。
ローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズ評して曰く。

「ペリーは謎、そして世界は彼の楽器なんだ。俺たちは耳を澄ませるだけ。ペリーはプロデューサー以上にアーティストの魂にインスピレーションを与える術を心得ている。フィル・スペクターのように、どこから降りてきたかわからない音を聴く才能に恵まれているだけでなく、こうした音をミュージシャンが理解できるよう、言い換えてくれる。ペリーはシャーマンなんだ」。

そう形容したようダブの母体であるレゲエミュージックのみならず。ジャンルを越境しロック・ミュージック、ヒップホップ、テクノ・ハウスミュージック等等あるいはそれらを総計したデジタルレコーディング/エンジニアリングとは切っても切り離せないものになる手法を見つけたともいえ。であるのみでなく初期の段階で発表した原始的かつ革新的な録音群は近代音楽史においていまだ色褪せることは無い。

そんなリー・ペリーの。時代を超えた普遍的傑作として知られている『Return of the Super Ape』。
自身のスタジオ。黒の方舟の名を冠したレコーディングスタジオ、ブラック・アークスタジオで録音された『Super Ape』。同アルバムの続編であり、同スタジオにおける録音技術の金字塔的作品として知られている『Return of the Super Ape』。

2000年に日本国内で発売された紙ジャケット仕様のリマスター盤は持っていたが。後に耳にした話では自分の持っているそれは、オリジナル音源の良くも悪くもローファイな手触りを忠実に再現しすぎたがため結果的にコンパクトディスク音源の美点を損なっている。
CDリスニングであれば、1998年にイギリスで発売された『The Original Super Ape』。タイトルこそ「The Original」と名付けられているが実際には『Return of the Super Ape』。そのオリジナル盤をコンパクトディスクにしたものでありCD化に際して音質面音圧面ともにデジタルリマスターならではの出来に仕上がっているので、まずはイギリス盤を入手視聴してから改めて紙ジャケ盤を聴いてみることをおすすめする。

あるいは同じくイギリスで発売された『Ape』。
『Super Ape』と『Return of the Super Ape』のダブルパックであるが単なる寄せ集めのお得盤にあらず。
一般的に広く流通されたアイランド・レコード版では無いジャマイカ現地仕様を基にデジタルならではのマスタリングが施された『Ape』を聴いて欲しい。
等等同盤にまつわる情報を実践し、それぞれ輸入盤を購入した程度には思い入れがあり。

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そして奇しくもリー・ペリー逝去の報を受け、アメリカで発売し直された特別仕様CD購入を呼び水に改めて聴き比べてみました。
再発盤リマスター盤といえどもそもそもオリジナルのマスターテープ由来の。音の歪やヒスノイズもそのまま忠実に再現するのがグッド・リマスタリングなのか。
それともデジタルリマスターならではの利点を最大限活用してノイズリダクションや音圧調整等補正作業を積極的に施し。オリジナルが志向した音の再現へと持ってゆくのが良い仕事なのか。
それぞれアプローチが異なっていて面白いです。

とはいえここに挙げた音源は。それぞれマスタリング上での差異があるものどれもオリジナルへのリスペクトという点においては方向性を同じくしているともいえ。
往年のリー・ペリーはブラック・アークスタジオ。実家の庭に作った彼自身のレコーディングスタジオにおける音源制作作業の過程で。ヤシの木の下に埋めたマイクを録音に使用したり、出来上がったマスターテープに小便をかけたり。
当人いわく。それらの行為は音楽にマジックを付与する重要な作業だったそうだが。
はたしてマスターテープに小便をかけたからそうなるのか分からないが、仕上がった音源は確かに凡百のそれとは明らかに異質なものになっているし。上に挙げたリマスター盤を制作するにあたり、どのエンジニアもリー・ペリーとブラック・アークスタジオの流儀を単なる奇行と一笑に付すこと無く彼の仕事に最大級の敬意を表した上デジタルリマスター作業をしているよう感じました。

その音楽を小説に例えるならマジックリアリズム。それもラテンアメリカより更に魔術表現寄りである『やし酒飲み』。エイモス・チュツオーラの手による其れと同質の。
初期デトロイトテクノにも似た手触りを感じるもので。

西洋文明の象徴ともいえる電子機材を使用し音楽を作ったとて、所謂西洋的洗練さとは対極にあるような。
それがとなえる現代においての正しさへの従属に中指を突き立てたくなるような衝動みあふれる余情がたまらない。

MDR-XB700のセルフリペア

 2007年にソニーから発売されたMDR-XB700。同社製ヘッドホンにおける新しいライン、EXTRA BASSシリーズ最初期のフラッグシップモデル「MDR-XB700」。
 クラブ音楽のリスニングに特化したラインというプレスリリースと、発売時はかなり斬新だったスタイリングにひかれて購入し、実際に使用したところ重低音再生に特化した、とはいえけして低音しか聞こえないキワモノでもないところに。そしてなによりスタイリング。
 同製品発売後には国内他社から追随して似たコンセプトのヘッドホンが多数発売されることとなる、ウォークマン以降のデザイン文法とは一線を画す重厚長大なイヤーパッドを基軸にしたスタイリングは発売から十年たっても、そして以前に記したように間の抜けた自損事故からいまだ片耳の聞こえが悪くヘッドホンで音楽を聴くことはほぼ無くなった今も魅力的で。

 しかし、XB700の美点である巨大なイヤーパッドは経年にともない内張りの部分がこのような無残な状態になり。

 存外気に入っていたので補修をして使えないかソニーのカスタマーセンターに問い合わせをしたところ。同製品のサポートは行っていないとのつれない返答。
 ただし、XB700の同グレードにあたるモデルと交換、というかたちで原状回復に応じるとのこと。
 少し考えたが、やはり同モデルに愛着といささかの未練があったので交換は断り、代わりにお金を払い改めてXB700の、その時点での同グレード相当。XB900を追加で購入した。

 だがしかし、時が経つにつれXB700そのものへの思いがまし。
 そうこうしているうち、同モデルに関する上に述べた、イヤーパッドの経年劣化に悩まされた好事家はそれなりにいたらしく、ソニー社外からレストア用のパーツが製造販売されていることを知り、さっそく自分も社外品のXB700交換用イヤーパッドを購入、セルフリペアに挑戦。

 交換作業はそうとう難儀だったが、かつて述べたこともある機械式腕時計用にそろえていた精密ドライバー等の工具が役立ち。

 まずはアームとヘッドホンユニットをつなぐネジを外し。

 イヤーパッドの内側に隠されているハウジングとイヤーパッドをつなぐネジも外す。

 パッド部分とハウジングの接続部になっている、リング形状の部品を取り外し。

 事前に用意していたレストア用イヤーパッドに換装し、再びヘッドホンユニットに取りつけアームと接続する。

 こうしてMDR-XB700のレストアと相成りました。

 蛇足として同モデルをインターネットで調べていると、市場においてかなりの希少価値がつけられ、デッドストックの美品に関しては発売当時参考価格の実に三倍強のプライスタグがつけられている。

 ソニーの同ライン、EXTRA BASSシリーズはモデルチェンジを重ねたが、それでもオリジナルのXB700を求める層は多いのかと。振り返れば自身も現行のフラッグシップモデルを新規購入したものXB700を手放す気にはなれず、セルフリペアに挑戦したのも。

 若い時分は最新こそが最善であると、モデルチェンジを重ねれば重ねただけ全てのあらゆる要素が向上されてゆくとの観念を持ちがちだが、いやいやどうして。刷新されたぶんだけ良くなる要素は確かにあるのだろうが、引き換えて失う部分も少なくない。
 そんなことも歳を経るごとスノッブ気味の受け売り薀蓄ではなく、実経験の積み重ねに基づいた焦点の定まった知識として分かってゆく。